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「菊乃や」誕生秘話2 ~菊乃やとの出会い~

主計町の裏路地にひっそりと佇む町屋を訪れたのは、
今からおよそ15年前のことでした。

その頃居を構えていたのは、
私の友人でもあるスコットという英会話教師。
日本文化を好む彼の茶会に招かれ、
初めて菊乃やに足を踏み入れることとなったのでした。

細かな木を縦横に組み合わせた紅殻格子の木虫籠や、
四方を建物に囲まれた小宇宙のような坪庭。
箱箪笥を兼ねた階段をあがると現れる座敷は、
芸妓の振る舞いを艶やかに惹きたたせるという朱壁。

その大半は老朽化が進んでいたものの、
香気漂う町屋でどこからか聞こえてくる三味の音に耳を傾けていると、
かつて暗がり坂を忍び下りた旦那衆の足音や
幼年の鏡花が境内で遊ぶ声までも聞こえてくるような・・
そんな不思議な感覚に陥ったことを思い出します。

<続>